「司法解釈〔2020〕7 号
(2020 年 8 月 24 日最高人民法院審判委員会第 1810 回会議通過、2020 年9 月12日より施行)」
営業秘密侵害民事事件を正しく審理するため、「中華人民共和国不正競争防止法」「中華人民共和国民事訴訟法」などの法律規定に基づき、審判実務を踏まえ、本解釈を制定する。
第一条 技術に関連する構造、原料、成分、処方、材料、サンプル、様式、植物新品種の繁殖材料、プロセス、方法またはその手順、アルゴリズム、データ、コンピュータプログラムおよびその関連文書等の情報について、人民法院は、不正競争防止法第九条第四項にいう技術情報を構成していると認定することができる。
経営活動に関連するアイデア、管理、販売、財務、計画、サンプル、入札応札材料、顧客情報、データ等の情報について、人民法院は、不正競争防止法第九条第四項にいう経営情報を構成していると認定することができる。
前項にいう顧客情報は、顧客の名称、住所、連絡先および取引習慣、意向、内容等の情報を含む。
第二条 当事者が、特定の顧客と長期的に安定した取引関係を保つことのみを理由とし、その特定の顧客が営業秘密に属していることを主張した場合、人民法院は支持しない。
顧客が従業員個人への信頼に基づき当該従業員の所属する会社と取引を行い、当該従業員が退職した後、 顧客自らの意志で当該従業員または当該従業員の所属する新しい会社と取引を行う選択をしたことを証明できる場合、人民法院は、当該従業員は不正手段を用いて権利者の営業秘密を取得していないと認定しなければならない。
第三条 権利者が保護を求める情報が、被疑侵害行為の発生時に、当業者に周知されておらず入手しやすいものでない場合、 人民法院は、不正競争防止法第九条第四項にいう公衆に知られていないと認定しなければならない。
第四条 次の状況の一つに該当する場合、人民法院は、関連情報が公衆に知られているものであると認定することができる。
(一)当該情報が所属分野の一般的な常識または業界の慣例に属している場合、
(二)当該情報が、製品の寸法、構造、材料、部材の簡単な組み合わせ等の内容のみに関し、所属分野の関係者が市販されている製品を観察することにより直接取得できる場合、
(三)当該情報が既に公開された出版物または他のメディアで開示されている場合、
(四)当該情報が既に公開された報告会、展覧等の方式により開示されている場合、
(五)所属分野の関係者が他の公開ルートから当該情報を取得できる場合。
公衆に知られている情報を整理、改善、加工した後に形成された新たな情報が本解釈の第三条の規定に合致する場合、当該新たな情報は公衆に知られていないと認定しなければならない。
第五条 権利者が営業秘密の漏洩を防止するために、被疑侵害行為が発生する前に 取った秘密保持措置について、人民法院は 、不正競争防止法第九条第四項に規定される相応する秘密保持措置であると認定しなければならない。
人民法院は 、営業秘密およびその媒体の性質 、営業秘密の商業的価値、秘密保持措置の識別可能レベル、 秘密保持措置と営業秘密との対応度合いおよび権利者の秘密保持意志等の要素に基づき、 権利者が相 応の秘密保持措置を取ったか否かを認定しなければならない。
第六条 次の状況の一つを有し 、正常な状況下で十分に営業秘密の漏洩を防止することができる場合、人民法院は 、権利者が相応の秘密保持措置を取ったと認定しなければならない。
(一)秘密 保持契約 を締結するか、 または契約書で秘密保持義務を約定している場合、
(二)定款、研修、規則制度、書面通知等の方式により、営業秘密に接触可能、取得可能な従業員、前従業員 、仕入先 、顧客、 来訪者等に秘密保持要求を提出している場合、
(三)秘密保持に関わる工場 、作業場等の生産経営場所に対して来訪者を制限したり区分管理をしたりしている場合、
(四)記号、 分類、隔離、暗号化、密封保存、 接触または取得可能な人員の範囲を制限する等の方式により 、営業秘密およびその媒体を区分して管理している場合、
(五)営業秘密に接触可能、 取得可能なコンピュータ装置、電子装置、ネットワーク装置、 記憶装置 、ソフトウェア等に対して、使用、アクセス、記憶、コピー等を禁止または制限する措置を取っている場合、
(六 )接触または取得した営業秘密およびその媒体を 登録、返却、削除、破棄し、秘密保持義務を負い続けるよう退職した従業員に要求している場合、
(七)他の合理的な秘密保持措置を取っている場合。
第七条 権利者が保護を求める情報が 、公衆に知られていないことで現実的または潜在的な商業的価値を有する場合 、人民法院は審査により、不正競争防止法第九条第四項に規定される商業的価値を有すると認定することができる。
生産経営活動中に形成された段階的な成果が前項の規定に合致する場合、人民法院は審査により、当該成果が商業的価値を有すると認定することができる。
第八条 被疑侵害者が法律規定または公認された商業道徳に違反する方式で権利者の営業秘密を取得した場合、 人民法院は、不正競争防止法第九条第一項に規定されるその他の不正な手段により権利者の営業秘密を取得することに属すると認定しなければならない。
第九条 被疑侵害者が、 生産経営活動中に営業秘密を直接使用したり、営業秘密を修正 、改良した後に使用したり、または営業秘密に基づき関連する生産経営活動を調整、最適化、改善した場合、人民法院は 、不正競争防止法第九条に規定される営業秘密の使用に属すると認定しなければならない。
第十条 当事者が法律規定 または契約書の約定に基づき秘密保持義務を負っている場合、人民法院は 、不正競争防止法第九条第一項に規定される秘密保持義務に属していると認定しなければならない。
当事者が契約書に秘密保持義務を約定していないものの、誠実と信用の原則および契約書の性質、目的、契約締結過程、取引習慣等により、被疑侵害者が、取得した情報が権利者の営業秘密に属していることを知り、または知ることができた場合、 人民法院は、被疑侵害者は取得した営業秘密に対して秘密保持義務を負うと認定しなければならない。
第十一条 法人 、非法人 組織の経営、管理者および労働関係を有する他の者につい て、人民 法院は、不正競争防止法第九条第三項でいう従業員、前従業員であると認定することができる。
第十二条 人民法院は、従業員 、前従業員が権利者の営業秘密を取得するルートまたは機会を有するか否かを認定する場合 、関連する次の要素を考慮することができる。
(一)職務、役割、権限、
(二)担当する本職の仕事または会社が割り当てた任務、
(三)営業秘密に関連する生産経営活動に参与する具体的な状況、
(四)営業秘密およびその媒体を保管、使用 、記憶、 コピー、制御、またはその他の形で接触、取得するか否か、
(五)考慮する必要のあるその他の要素。
第十三条 被疑侵害情報と営業秘密に実質的な区別が存在しない場合、人民法院は 、被疑侵 害情報が営業秘密と不正競争防止 法第三十二条第二項でいう実質的な同一を構成していると認定することができる。
人民法院が前項でいう実質的な同一を構成しているか否かを認定する場合、次の要素を考慮することができる。
(一)被疑侵害情報と営業秘密との相違度、
(二)所属分野の関係者が 、被疑侵害行為の発生時に、 被疑侵害情報と営業秘密との区別を容易に想到するか否か、
(三)被 疑侵害情報と営業秘密の用途、使用方式、 目的、効果等に実質的な差があるか否か、
(四)公的分野における営業秘密に関連する情報の状況、
(五)考慮する必要のあるその他の要素。
第十四条 自らの研究開発またはリバースエンジニアリングにより被疑侵害情報を取得した場合、人民法院は、不正競争防止 法第九条に規定される営業秘密侵害行為に属しないと認定しなければならない。
前項でいうリバースエンジニアリングとは、技術手段により、公開ルートから取得した製品の取り外し、 マッピング、分析などを行って当該製品の関連技術情報を取得することを意味する。
被疑侵害者が、不正な手段で権利者の営業秘密を取得した後、更にリバースエンジニアリングを理由として営業秘密を侵害していないと主張した場合、人民法院は支持しない。
第十五条 被申立人が、権利者の主張する営業秘密を不正な手段で取得、開示、使用したりまたは他人に権利者の主張する営業秘密の使用を許可しようとするか、これらを試みていて、行為保全措置を取らないと 、判決が執行しにくくなったり、当事者のその他の損害を招いたりまたは権利者の合法的権益に補いにくい損害を与える場合、人民法院は 、法律に基づき行為保全措置を取ることを裁定することができる。
前項に規定される状況は、民事訴訟法第百条 、第百一条にいう緊急の状況に属し、人民法院は四十八時間以内に裁定を行わなければならない。
第十六条 経営者以外のその他の自然 人、法人および非法人組織が営業秘密を侵害 し、権利者が不正競争防止法第十七条の規定に基づき権利侵害者の負うべき民事責任を主張した場合、人民法院は支持しなければならない。
第十七条 人民法院は、営業秘密侵害行為に対して侵害を停止する民事責任を判決する場合 、侵害停止の期間を 、一 般的に当該営業秘密が公衆に知られるまで継続しなければならない。
前項の規定に基づき判決による侵害停止期間が明らかに合理的ではない場合、人民法院は、 法律に基づき権利者の営業秘密の競争優位性を保護する前提で、権利侵害者に一定の期限または範囲内で当該営業秘密の使用を停止する判決を下すことができる。
第十八条 権利侵害者が営業秘密媒体を返却または破棄し、それが制御する営業秘密情報を削除する判決を下すよう権利者が請求した場合、人民法院は通常支持しなければならない。
第十九条 権利侵害行為により営業秘密が公衆に知られた場合、人民法院は、法律に基づき賠償額を確定する際に営業秘密の商業的価値を考慮してもよい。
人民法院が前項でいう商業的価値を認定する際、研究開発費、当該営業秘密を実施した際の収益、 得られる利益、競争優位性を保持できる時間などの要素を考慮しなければならない。
第二十条 営業秘密使用許諾料を参照して権利侵害による実際の損失を確定するよう権利者が請求した場合 、人民法院は、許諾の性質、内容、実際の履行状況および権利侵害行為の性質 、情状、 結果等の要素に基づき確定することができる。
人民法院は、不正競争防止法第十七条第四項に基づき賠償額を確定する場合、営業 秘密の性質、商業的価値 、研究開 発費、革新 レベル、もたらす競争優位性および権利侵害者の主観的な 過失、権利侵害行為の性質、情状、結果等の要素を考慮することができる。
第二十一条 当事者または訴外者の営業秘密に関する証拠、材料に対して当事者または訴外者が書面で人民法院に秘密保持措置を取るよう申請した場合、人民法院は、保全、証拠交換 、証拠検証、鑑定依頼、尋問、法廷審理などの訴訟活動において必要な秘密保持措置を取らなければならない。
前項にいう秘密保持措置の要求に違反し 、営業秘密を勝手に開示したり、訴訟活動以外で使用したり、 訴訟で接触、 取得した 営業秘密の他人の使用を許可したりした場合、法律に基づき民事責任を負わなければならない。民事訴訟法第百十一条に規定される状況を構成した場合、人民法院は、法律に基づき強制的な措置を取ることができる。 犯罪を構成した場合、法律に基づき刑事責任を追及する。
第二十二条 人民法院は、営業秘密侵害民事案件を審理する際、法定手続きに従い 、営業秘密侵害犯罪刑事訴訟中に形成された証拠を、全面的かつ客観的に審査しなければならない。
公安機関、検察機関または人民法院が保存した被疑侵害行為と関連性がある証拠を、営業秘密侵害民事案件の当事者およびその訴訟代理人が客観的な理由で自ら収集することができず 、調査収集を申請した場合、人民法院は許可しなければならないが、進行中の刑事訴訟手続きに影響を与える場合を除く。
第二十三条 当事者が、発効された刑事裁判によって認定された実際の損失または違法所得に従って同一の営業秘密侵害行為に関する民事案件の賠償額を確定すると主張した場合、人民法院は支持しなければならない。
第二十四条 権利者は、権利侵害者が権利侵害によって得た利益の初歩的な証拠を既に提供したものの、営業秘密侵害行為に関連する帳簿、資料が権利侵害者によって把握されている場合、人民法院は、権利者の申請に応じ、権利侵害者に当該 帳簿、資料を提供するよう命じることができる。権利侵害者が正当な理由なく提供しないまたはありのままに提供しない場合、人民法院は、権利者の主張および提供された証拠に基づき権利侵害者が権利侵害によって得た利益を認定することができる。
第二十五条 当事者が、同一の営業秘密被疑侵害行為に関する刑事案件が結審されていないことを理由として、営業秘密侵害民事事件の審理を中止するよう請求し、人民法院は 、当事者の意見を聴取した後に当該刑事事件の審理結果を根拠とする必要があると認定した場合、それを支持すべきである。
第二十六条 営業秘密独占的使用許諾契約の被許可者が営業秘密侵害行為に対して訴訟を提起する場合、人民法院は法律に基づき受理しなければならない。排他的使用許諾契約の被許可者と権利者とが共に訴訟を提起するか、または権利者が起訴しない状況下で自ら訴訟を提起する場合、人民法院は法律に基づき受理しなければならない。
一般的な使用許諾契約の被許可者と権利者とが共に訴訟を提起するか、または権利者の書面による授権で単独で訴訟を提起する場合、人民法院は法律に基づき受理しなければならない。
第二十七条 権利者は、一審の法廷弁論が終了する前に、主張する営業秘密の具体的な内容を明確にしなければならない。一部しか明確にできない場合、人民法院は明確な部分に対して審理を行う。
権利者は、 二審において、一審で明確にされていない営業秘密の具体的な内容を別途主張した場合 、二審人民法院は、当事者の自由意志の原則に基づき当該営業秘密の具体的な内容に関連する訴訟請求について調停を行うことができ、調停ができない場合 、別途起訴することを当事者に通知することができる。双方の当事者のいずれも二審人民法院で一括して審理することに同意する場合、二審人民法院は一括裁判を行うことができる。
第二十八条 人民法院が営業秘密侵害民事案件を審理する場合、被疑侵害行為発生時の法律を適用する。被疑侵害行為が法律改正前に既に発生しており、法律改正後まで継続する場合、改正後の法律を適用する。
第二十九条 本解釈は 2020 年 9 月 12 日より施行する。
最高人民法院がこれまでに発行した関連司法解釈が本解釈と一致しない場合、本解釈に準ずる。 本解釈が施行された後 、人民法院で審理中の一審、二審の事件には本解釈が適用される。 施行前に既に効力を有する裁判が行われた事件については、本解釈を適用して再審を行わない。