11 月 16 日、最高人民法院は「知的財産権民事訴訟の証拠に関する若干の規定」(以下、「知財証拠規定」と称する)を公布する。この司法解釈は 2020 年 11 月 18 日より施行される。
「知財証拠規定」の制定は、最高人民法院が質の高いサービスの発展を図り、知的財産権の司法的保護を強化するための重要な措置である。「知財証拠規定」は問題意識を堅持し、民事訴訟の証拠における一般規則に従い、知的財産権訴訟の特徴と実情を踏まえ、知的財産権民事訴訟において特に顕著な問題となっている証拠提出、証拠保全、司法鑑定及び訴訟における営業秘密保護などについて規定を設け、権利者の立証負担を適切に軽減し、知的財産権訴訟の誠実信用体制の確立を強化する。「知財証拠規定」の公布・実施は、知的財産権民事訴訟における「立証の難しさ」を解決し、権利行使コストを低減し、知的財産権の司法保護の質的効果を向上させ、市場化、法治化、国際化されたビジネス環境の造成を促進するために重要な役割を果たす。
「最高人民法院による知的財産権民事訴訟の証拠に関する若干の規定」は 2020 年 11 月 9 日、最高人民法院審判委員会第 1815 回会議で採択され、2020 年 11 月 18 日より施行される。
最高人民法院
2020 年 11 月 16 日
法解釈〔2020〕12 号
(2020 年 11 月 9 日、最高人民法院審判委員会第 1815 回会議で採択、2020 年 11 月 18 日より施行)
当事者の法律に基づく訴訟権利の行使を保障し・容易にし、人民法院の知的財産権民事事件の公正かつ適切な審理を保証するため、「中華人民共和国民事訴訟法」などの関連法律規定に基づき、知的財産権民事裁判の実情を踏まえ、本規定を制定する。
第一条 知的財産権民事訴訟の当事者は誠実信用の原則に従い、法律および司法解釈の規定に基づき、積極的、全面的、正確、誠実に証拠を提供しなければならない。
第二条 当事者は自らの主張に対して、証拠を提供して証明しなければならない。事件の審理状况に応じて、人民法院は、民事訴訟法第六十五条第二項の規定を適用し、当事者の主張や要証事実、当事者の証拠の保有状况、立証能力などに基づき、当事者に関連証拠の提供を求めることができる。
第三条 専利方法により製造された製品が新製品に属さない場合、専利権侵害紛争の原告は以下の事実を立証しなければならない。
(一) 被告が製造した製品と専利方法を用いて製造した製品が同じ製品に属すること、
(二) 被告が製造した製品が専利方法によって製造された可能性が高いこと、
(三) 原告が被告が専利方法を使用したことを証明するために合理的な努力を尽くしたこと。
原告が前款の立証を完了した後、人民法院は被告にその製品の製造方法が専利方法と異なることを立証するよう要求することができる。
第四条 被告が法に基づいて合法的な出所の抗弁を主張する場合、合法的な購入ルート、合理的な価格や直接の供給者などを含めた、被疑侵害製品、複製品を合法的に入手した事実を立証しなければならない。
被告が提供した被疑侵害製品、複製品の出所証拠がその合理的な注意義務に相当する場合、前款の立証を完了したと認定することができ、また被告が被疑侵害製品、複製品が知的財産権を侵害していることを知らなかったと推定することができる。被告の事業規模、専門性、市場取引習慣などは、その合理的な注意義務を確定する証拠とすることができる。
第五条 知的財産権非侵害確認訴訟を提起した原告は、以下の事実を立証しなければならない。
(一) 被告が原告に対し権利侵害警告をしたり、原告に対して権利侵害告発を行った事実、
(二) 原告が被告に送付した提訴権行使の催告と催告日時、送付日時、
(三) 被告が合理的な期限内に訴訟を提起しなかった事実。
第六条 法的期限内に行政訴訟を提起しなかった行政行為により認められた基本事実、または行政行為により認められた基本事実が効力のある裁判ですでに確認されている場合、当事者は知的財産権民事訴訟において再度証明する必要はないが、覆すに値する相反する証拠がある場合を除く。
第七条 権利者が知的財産権侵害行為を発見または証明するために、自らあるいは他人に依頼して、通常の購入者名義で被疑侵害者から権利侵害物品を購入して入手した実物、手形などは被疑侵害者の権利侵害行為を提訴する証拠とすることができる。
被疑侵害者が他人の行為によって知的財産権侵害行為を実施したことによって形成された証拠は、権利者がその権利侵害を提訴する証拠とすることができるが、被疑侵害者が権利者の証拠収集行為に基づいて知的財産権侵害行為を実施した場合を除く。
第八条 中華人民共和国の領域外で形成された以下の証拠について、当事者がその証拠が公証、認証などの証明手続きを行っていないという理由だけで異議を申し立てた場合、人民法院はこれを支持しない。
(一) 法的効力が生じる人民法院の裁判によって確認されたもの、
(二) 仲裁機関の発効した裁決によって確認されたもの、
(三) 公開出版物、専利文献など公的または公開ルートから入手できるもの、
(四) 真実性を証明できるその他の証拠。
第九条 中華人民共和国の領域外で形成された証拠で、下記のいずれかに該当し、当事者がその証拠の認証手続きがなされていないという理由だけで異議を申し立てた場合、人民法院はこれを支持しない。
(一) 異議を申し立てた当事者が証拠の真実性を明確に認めた場合、
(二) 相手方当事者が証拠の真実性を確認するために証人証言を行い、証人が偽証であった場合処罰を受ける意思を明らかにしている場合。
前款第2項にいう証人の偽証が、民事訴訟法第百一十一条に規定される状況に該当する場合、人民法院は法に基づいてこれを処理する。
第十条 一審手続きにおいて、民事訴訟法第五十九条、第二百六十四条の規定に基づき授権委任状の公証、認証又はその他の証明手続きが行われた場合、人民法院は、その後の訴訟手続において、授権委任状の上記証明手続きを請求しなくてもよい。
第十一条 人民法院は、当事者又は利害関係者の証拠保全の申し立てに対して、以下の要素を考慮して審査を行わなければならない。
(一) 申立人がその主張について初歩的な証拠を提供しているか否か、
(二) 証拠は申立人自ら収集可能か、
(三) 証拠隠滅又は今後の取得困難の可能性、及びそれらが要証事実の証明に与える影響、
(四) 講じられる可能性のある保全措置が証拠保持者へ与える影响。
第十二条 人民法院は証拠保全を行う場合、有効な固定的証拠に限定し、保全対象物の価値に対する損害及び証拠保持者の正常な生産経営活動への影響を極力減らさなければならない。
証拠保全が技術案に及ぶ場合、現場の検証調書の作成、作図、撮影、録音、録画、デザイン及び生産図面のコピーなどの保全措置を講じることができる。
第十三条 当事者が正当な理由なく証拠保全に協力せずまたは妨害して、証拠保全ができない場合、人民法院はそれに対し不利な結果を負わせることを確定できる。民事訴訟法第百一十一条の規定を構成する場合、人民法院は法に基づいて処理する。
第十四条 人民法院が保全措置を講じた証拠に対して、当事者が勝手に証拠の実物を分解したり組み立てたり、証拠材料を改竄したり、あるいはその他の証拠破壊行為を実施し、証拠が使用できなくなった場合、人民法院はそれに対し不利な結果を負わせることを確定できる。民事訴訟法第百一十一条の規定を構成する場合、人民法院は法に基づいて処理する。
第十五条 人民法院は、証拠保全を行う場合、当事者又は訴訟代理人の出席を要請することができ、必要に応じて、当事者の申請により専門知識を有する者に出席を通知することができ、技術調査官を証拠保全に参加させてもよい。
証拠を事件関係者以外が保有する場合、人民法院はその保有する証拠に対して保全措置を講じることができる。
第十六条 人民法院は証拠保全を行う場合、調書、保全しようとする証拠リストを制作して、保全期間、場所、実施者、立会人、保全経過、保全対象物の状態を記録し、実施者、立会人によって署名または押印を行う。関係者が署名や押印を拒否しても、保全の効力に影响を及ぼさず、人民法院は調書に明記し、撮影や録画をすることができる。
第十七条 被申立人が証拠保全の範囲、措置、必要性などに対して異議を申し立て、関連証拠を提供し、人民法院が審査を経て異議理由が成立すると見なした場合、証拠保全を変更、中止、解除することができる。
第十八条 申立人が保全された証拠の使用を放棄したものの、保全された証拠が事件の基本的事実の究明に関わるものであったり、またはその他の当事者が使用を主張した場合、人民法院は当該証拠を審査し認定することができる。
第十九条 人民法院は以下の要証事実の専門的な問題について鑑定を依頼することができる。
(一) 被疑侵害技術案と専利技術案、従来技術の対応する技術的特徴の手段、機能、効果などの面での相違、
(二) 被疑侵害作品と権利主張する作品との相違、
(三) 当事者が主張する営業秘密と所属分野の公衆に知られている情報との相違、被疑侵害の情報と営業秘密の相違、
(四) 被疑侵害物と授権品種の特徴、特性面での相違、その違いが非遺伝的変異によるものか、
(五) 被疑侵害集積回路設計と保護を要求する集積回路設計との相違、
(六) 契約に関わる技術に欠陥がないか、
(七) 電子データの真実性、完全性、
(八) その他鑑定依頼が必要な専門的問題。
第二十条 人民法院の許可または双方の当事者の同意を経て、鑑定人は鑑定に関わる検査事項の一部を他の検査機関に委託して検査を行うことができ、鑑定人は検査結果に基づいて出された鑑定意見に対して法的責任を負う。
第二十一条 鑑定業務分野において、鑑定人と鑑定機関の統一登記管理制度が実施されていない場合、人民法院は「最高人民法院による民事訴訟の証拠に関する若干の規定」第三十二条に規定される鑑定人選任手続きに基づき、相応の技術レベルを有する専門機関、専門員による鑑定を确定することができる。
第二十二条 人民法院は各当事者の意見を聴取し、また当事者が提出した証拠をもとに鑑定の範囲を確定しなければならない。鑑定過程において、一方の当事者が鑑定範囲の変更を申請し、相手方当事者に異議がない場合、人民法院はこれを許可することができる。
第二十三条 人民法院は以下の要素を考慮して鑑定意見を審査しなければならない。
(一) 鑑定人が相応する資格を有しているか、
(二) 鑑定人が相応する専門的な問題解決に必要な知識、経験、技能を有しているか、
(三) 鑑定方法や鑑定手続きが規範的か、技術的手段が信頼できるものであるか、
(四) 検査材料が当事者の証拠検証を経たものであり、鑑定条件を満たしているか、
(五) 鑑定意見の根拠は十分か、
(六) 鑑定人に忌避すべき法定事由がないか、
(七) 鑑定人は鑑定過程において、私情やその他公正な鑑定に影響を及ぼす事情がないか。
第二十四条 立証責任を負う当事者が、書面で人民法院に証拠を持つ相手方当事者に証拠提出を申し立て、申し立て理由が成立した場合、人民法院は裁定を下し、提出を命じなければならない。
第二十五条 人民法院は法に基づいて当事者に関連証拠の提出を要求し、その当事者が正当な理由なしに提出を拒否したり、虚偽の証拠を提出したり、証拠を隠滅したり、その他証拠を使用不能にさせる行為を行った場合、人民法院は相手方当事者の当該証拠に関係する証明事項についての主張が成立すると推定することができる。
当事者が前款に掲げる行為を実施し、民事訴訟法第百一十一条の規定を構成する場合、人民法院は法に基づいてこれを処理する。
第二十六条 証拠が営業秘密あるいは秘密保持が必要な営業情報に関連する場合、人民法院は、関連する訴訟参与人が証拠に接触する前に、秘密保持契約を締結し、秘密保持を誓約させるか、あるいは裁定などの法律文書により、本件訴訟以外のいかなる目的でも、訴訟手続き中に接触した秘密情報の開示、使用、他人への使用の許可をしてはならないことを命じなければならない。
当事者が前款にいう証拠に接触する人員の範囲に対して制限を申し立て、人民法院が審査を経て必要であると見なした場合、これを許可しなければならない。
第二十七条 証人は法廷で証言し、裁判官や当事者から尋問を受けなければならない。双方の当事者が同意し且つ人民法院の許可を経て、証人が出廷しない場合、人民法院は当事者が証人証言に対して証拠検証を行うよう調整しなければならない。
第二十八条 当事者は専門知識を有する者を出廷させ、専門的な問題について意見を提出することを申請することができる。法廷の許可を得て、当事者は専門知識を有するものに尋問を行うことができる。
第二十九条 人民法院が、技術調査官を派遣して開廷審理前会議、開廷審理に参加させた場合、技術調査官は事件に関わる技術問題について、当事者、訴訟代理人、専門知識を有する者、証人、鑑定人、現場検証者などに尋問することができる。
第三十条 当事者が公証文書に対して異議を申し立て、覆すに値する相反する証拠を提出した場合、人民法院は公証文書を認めない。
当事者が公証文書に対して提出した異議理由が成立した場合、人民法院は公証機関に説明又は補正を求めることができ、その他の関連証拠と合わせて当該公証文書を審査・認定することができる。
第三十一条 当事者が提供した財務帳簿や会計証明、販売契約、入荷・出荷証明書、上場企業年報、目論見書、ホームページ、パンフレットなどに関する記載、設備・システムに保存された取引データ、第三者のプラットフォームが集計した商品流通データ、評価報告書、知的財産権ライセンス契約及び市場監督管理、税務、金融部門の記録などは、当事者が主張する知的財産権侵害による賠償額を証明する証拠として使用することができる。
第三十二条 当事者が知的財産権のライセンス料の合理的な倍数を参照して賠償額を確定することを主張した場合、人民法院は以下の要素を考慮してライセンス料の証拠を審査・認定することができる。
(一) ライセンス料を実際に支払ったかおよび支払い方法、ライセンス契約が実際に履行または登録されたか、
(二) ライセンスの権利内容、方式、範囲、期限、
(三) ライセンシーとライセンサーに利害関係があるか、
(四) 業界におけるライセンスの一般基準。
第三十三条 本規定は 2020 年 11 月 18 日より施行される。当院が以前公布した関連司法解釈が本規定と一致しない場合、本規定に準ずる。