中国自動車業界標準必須特許ライセンスガイドライン

2022/09/30
2022/10/20

2022年9月、中国自動車工程学会知的財産権分会、IMT-2020(5G)推進グループ、自動車標準必須特許ワーキンググループは、共同で「自動車業界標準必須特許ライセンスガイドライン(2022年版)」を発表しました。
 
本ガイドラインは、自動車の「産業チェーンのいずれの段階においてもライセンスを受ける資格がある原則」などを含む四つの原則に言及し、合理的なライセンス料の計算基礎、考慮要素、計算方法と累積ライセンス料率制限原則などを明確にし、自動車業界の標準必須特許ライセンスにおいて参考となる文書を提供しています。
 
全文訳は以下の通りです。

序論

自動車産業は新たな科学技術革命の先導的産業であり、スマートネットワーク自動車が盛んに発展し、自動車技術と無線通信技術などに代表される業界間技術が融合して発展しており、自動車製品に適用される技術標準に関連する特許技術が増加している。業界によって知的財産権保護や特許ライセンスモデルなどに大きな違いがあるため、標準必須特許のライセンスなど新たな問題が生じている。

自動車産業の質の高い発展をさらに促進し、異なる産業間の健全な相互作用と融合発展を形成するため、中国自動車技術研究センター有限公司と中国情報通信研究院は、中国自動車工程学会知的財産権分会、IMT-2020(5G)推進グループと自動車標準必須特許ワーキンググループに依頼をし、業界の専門家を組織して起案と研究、論証を行い、それぞれのワーキンググループ内で意見募集を行い、「自動車業界標準必須特許ライセンスガイドライン」を形成し、業界の参考とする。

一、定義

標準必須特許(SEP)」とは、ある技術標準を実施する上で必ず使用する特許をいう。
「自動車製品」とは、自動車の部品や完成車をいう。
「自動車業界標準必須特許」とは、自動車製品が準拠する技術標準に関係する標準必須特許をいう。
「公平、合理、非差別」の原則は国際範囲内の標準化組織が公認した許可原則であり、FRAND原則とも呼ばれる。

二、自動車標準必須特許ライセンスの核心原則

1、利益バランスの原則
標準必須特許ライセンスは利益バランスの原則に従うべきであり、特許権者の革新的な投資が合理的な見返りを得られることを保証するとともに、ライセンス料を合理的な範囲内に維持し、それによって技術標準が広く普及し応用され、自動車産業の健全で持続可能な発展を促進することを保証し、また社会公衆の利益も考慮しなければならない。

2、公平、合理的、非差別の原則
「公平、合理的」の原則とは、主に、標準必須特許権者はFRAND原則に従うことを前提として、その研究開発への投資と技術革新に対して利益を得る権利があるが、特許権者のライセンスによる利益は合理的な範囲内に維持されなければならないことを意味する。
「非差別」の原則とは、標準必須特許権者は、実質的に同一または類似の条件にある実施者に対して、実質的に同一または類似の条件でライセンスを行い、理由なくライセンスを拒否したり、不合理なライセンス条件を付加したりしてはならないことをいう。ライセンス条件または条項に著しい差異がある場合は、実質的に同一または類似の条件の実施者が競争上不利な立場にならないように合理的に解釈しなければならない。
標準化組織で承諾された標準必須特許に、その後、承継、譲渡などの特許権の権利帰属の変更が発生した場合、元の特許権者はその承継者または譲受人と適切な形式で、すべての後続の承継者または譲受人が公平、合理的、非差別の原則の制約を受けられるようにしなければならない。

3、産業チェーンのいずれの段階においてもライセンスを受ける資格がある原則
標準化組織が下したFRAND宣言または標準化組織の知的財産権政策に基づき、すべての善意の特許実施者は標準必須特許ライセンスを得る権利があり、標準必須特許権者は産業チェーンの段階を問わず、ライセンスを希望する実施者にライセンスを提供する義務がある。  
標準必須特許権者は、同一産業チェーン内の異なる階層の製造業者に重複して標準必須特許ライセンス料を請求してはならない。

4、業界の差異を協議して処理する原則
自動車産業チェーンのシステムは複雑で、完成車に要する部品数は数万にのぼる。現在の成熟した産業実践において、自動車業界で一般的に行われているビジネス慣行は産業チェーンの縦ライセンスモデルである。つまり、自動車企業は通常、契約約定の方式で上位のサプライヤーが部品製品の知的財産権ライセンス問題を解決し、完成車企業は通常サプライヤーを通じて完成車の各種部品製品の知的財産権問題を解決する。
自動車製品向けの標準必須特許ライセンスモデルと自動車業界の現行のライセンスモデルとビジネス慣行に差異や相違がある場合、双方の業界の業界特徴とビジネス慣行を十分に尊重し、考慮し、積極的かつ好意的な方法で交渉・協議を行い、双方が受け入れられるライセンスモデルを探求する。

三、合理的なライセンス料の計算原則

1、標準必須特許ライセンス料の計算基数
標準必須特許ライセンス料の計算基数については、標準必須特許技術が自動車製品において実際に貢献する製品ユニットをライセンス料計算基数とし、標準必須特許技術と関係のない他の製品ユニットをライセンス料計算基数に含めることを避けなければならない。
自動車製品の部品か完成車かに関らず、ライセンス料計算基数として、標準必須特許技術の自動車製品における実際の貢献価値を考慮しなければならない。また、ライセンスの階層にかかわらず、同じ自動車製品に対して計算された標準必須特許ライセンス料はほぼ同じであるべきであり、ライセンス階層の違いによってライセンス料に著しい差が生じてはならない。

2、ライセンス料の考慮事項
合理的なライセンス料は標準必須特許技術の自動車製品に対する実際の価値への貢献、業界累積ライセンス料率、特許権者が保有する標準必須特許数、特許地域の分布などの事項を考慮しなければならず、ライセンス料率は特許が標準に組み込まれていることで、追加の利益を得てはならない。
標準必須特許の自動車製品の価値への貢献は、自動車製品の価値が技術、市場、生産、ブランド、アフターサービスなどの複数のプロセスから構成されること、特に自動車製品の価値におけるブランドの貢献を考慮する必要がある。また、標準必須特許技術の自動車製品の販売と利益に対する貢献も考慮しなければならない。
特許権には地域属性があり、合理的なライセンス料については、実施者の生産販売区域、特許権者の特許地域分布及び地域ごとの経済レベルの違いなどの要素を考慮しても良く、地域ごとに異なるライセンス料率を適用することができる。

3、累積ライセンス料率を制限する原則
ライセンス双方の利益バランスを保証するために、自動車製品の標準必須特許ライセンス料の和には合理的な上限がなければならず、この上限値はライセンス対象製品が所在する業界の合理的利益の一定の割合とすることができる。
同一の技術標準下での標準必須特許を異なる業界で適用する場合、累積ライセンス料率も異なる場合があって良い。

4、ライセンス料の計算方法の合理的選択
標準必須特許のライセンス料を計算する際は、「トップダウン」法、ライセンス契約比較法などを採用することができる。
トップダウン法を採用することで、特許ライセンス料の積み上げ問題を回避することができる。この方法では、まず特定標準におけるすべての標準必須特許の累積ライセンス料率の上限を決定する必要があり、次に異なる特許権者の実際の標準必須特許の占有率を計算して、異なる特許権者の合理的ライセンス料の割合を計算する。
ライセンス契約比較法を採用する場合は、ライセンス取引の主体、ライセンス製品、ライセンス地域、ライセンスターゲット間の関連性、ライセンスに含まれる取引相手、ライセンス双方の交渉過程などの要素を総合的に考慮することができる。
「トップダウン」法を採用する場合も、ライセンス契約比較法を採用する場合も、特許権者の実際の標準必須特許の占有率、標準必須特許の地域分布を考慮するとともに、標準必須特許権者の標準に対する実際の貢献と提案状況を考慮する必要がある。

四、解釈権と声明

本ガイドラインは中国自動車工程学会知的財産権分会、IMT-2020(5G)推進グループと自動車標準必須特許ワーキンググループが説明責任を負う。
本ガイドラインは公布日より実施される。
本ガイドラインの条項が中国の現行の法律法規と一致しない場合、現行の法律法規に準ずる。

    

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