一、前書き
近年の中国審査実務では、審査官が適切な引例を探さずに、区別される技術的特徴が「公知技術・慣用技術的手段」に属すると指摘し、進歩性を否定する状況が散見されます。このような場合、区別される技術的特徴が「公知技術・慣用技術的手段」に属さないことを単に主張するだけでは、審査官を説得することができない場合があります。
このような状況に直面した場合、代理人は、具体的な案件の実情に合わせて合理的な論争を行い、出願人の利益を保護しなければなりません。
以下では、公知技術・慣用技術的手段問題に関する応答の構想についてご紹介します。
二、応答の構想
(1)区別される技術的特徴が本願の発明点である場合
拒絶理由において、審査官が見つけた引例が、本願と引例との間の一つ(またはいくつかの)区別される技術的特徴を開示していないものの、審査官が当該区別される技術的特徴は、公知技術、または当該分野の慣用技術的手段であると認定した場合。
まず、中国審査指南第二部分第八章には、「審査官が拒絶通知書において引用した当該分野における公知技術は確定的なものでなければならず、出願人が審査官が引用した公知技術に対して異議を申し立てた場合、審査官はそれを証明するために相応の証拠を提出し、又はその理由を説明することができなければならない。拒絶通知書において、技術的問題の解決に寄与する請求項の技術的特徴を公知技術であると認定した場合、審査官は通常、それを証明する証拠を提出しなければならない」と規定されています。
このように、区別される技術的特徴がまさに本願の発明点である場合、本発明の発明目的及び解決しようとする技術的問題から出発して、区別される技術的特徴が本願の発明点であることを論じ、当業者が備えている知識と結び付けて、出願日前には、この区別される技術的特徴が当分野の相応する技術的問題を解決する慣用技術的手段または公知常識でなかったことを証明します。同時に審査官に証拠を提出してその観点を証明するよう要求することができます。
(2)区別される技術的特徴が出願日前に当分野の慣用技術的手段でないことを証明する
「慣用技術的手段」は時間属性を持っています。中国専利法第二十二条第三款の進歩性に関する規定では、出願日以前にすでにある技術と比較すると記載されています。よって、「慣用技術的手段」も時間属性上は出願日以前に当分野で新たに確定した技術的問題を解決する慣用手段であるべきだと思われます。審査官が、区別される技術的特徴が当分野において、ある技術的問題を解決するための「慣用技術的手段」に属すると断言した場合、この技術的手段は出願日以前に、すでに当業者が普遍的に採用している技術的手段となっていることを示唆しています。
実際、1件の特許出願において出願日から第一回拒絶通知書が発行されるまでは、通常少なくとも1年以上の期間、長い場合は3年かかることもあります。しかし、今の科学技術が日々進歩していることを踏まえると、発明が審査が開始される前にすでに市場で広く応用されている可能性もあります。現在の「公知技術」または「慣用技術的手段」は、本発明の出願日の技術レベルで見ると、「公知技術」または「慣用技術的手段」に属さないことが多いです。この点について、当分野の技術発展の歴史と現状を理解し、正確な判断を下す必要があります。
そのため、拒絶通知書に応答する際は、本願の出願日以前に、当業者がこの技術的問題を解決するために慣用している技術的手段が何であるか、また、この区別される技術的特徴がなぜ一般的な技術的手段ではないのか、また、本発明の区別される技術的特徴がこれらの慣用技術的手段に対してどのような有益な技術的効果を有するのかを、様々な方法で例示する必要があります。
(3)技術的特徴の応用における非自明性
区別される技術的特徴自体は公知であっても、その技術的手段を応用して解決する相応する技術的問題が非自明的である場合
発明創造を行う際、発明者はまず従来技術に存在する技術的問題を見つける必要があります。実際には、発明が解決しようとする技術的問題を認識することが当業者の能力やレベルを超えている可能性があり、まだ認識されていない技術的問題を見つけるのが非自明的であるのも、発明創造が進歩性を有しているか否かを測る一面でもあります。
特定の技術的手段を見つけ出してこの技術的問題を解決し、期待される技術的効果を得ます。技術的問題が提起されると、その技術的問題を解決するための技術的手段は明らかであっても、すなわち、その技術的特徴自体は当業者にとって慣例であっても、その技術的手段を適用して相応する技術的問題を解決することは容易には想到できない場合があります。例えば、歴史的偏見があったり、引例が示す技術案がこれらの技術的手段を放棄していたりすると、それらの技術的特徴を最も近い従来技術に適用するには技術的障害があったり、多大な創造的労力が必要であったりします。
(4)区別される技術的特徴が予測できない技術的効果をもたらした場合
中国審査指南第二部分第四章には、「発明が従来技術と比べた際に予測できない技術的効果を有する場合、その技術案が際立った実質的特徴を有しているかどうかを疑う必要はなく、発明が進歩性を有することを確定できる」と規定されています。
審査官が慣用技術的手段であると判断した区別される技術的特徴について、その区別される技術的特徴を適用することで予測できない技術的効果を得ることができれば、応答時に、その区別される技術的特徴自体は慣例であるが、本願に適用することにより、通常の使用方法では生じ得ない予測できない技術的効果が生じる、ということを強調することができます。
出願人は、本願に明記されている、従来技術と区別される具体的な技術的効果から、その区別される特徴を有する技術案が予測できない技術的効果を得たことを説明したり、相応する比較試験の証拠を提供したり、従来技術の証拠(例えば、当分野の一般的な技術知識)を利用して技術的効果が予測できないことを証明したりすることができます。
(5)区別される技術的特徴を引例と組み合わせることはできない
引例が逆の教示や示唆を示しており、当業者が引例においてその区別される技術的特徴を適用することを想到できない場合。
例えば、引例の技術案において、区別される技術的特徴の適用を明確に排除している状況が、引例が逆の教示を与えている場合などです。また、区別される技術的特徴と従来技術とを組み合わせることで従来技術の目的が達成できない、技術案が実施できない、あるいは予測される技術的効果が得られない場合、当業者がその区別される技術的特徴を最も近い従来技術と組み合わせる障害となり、すなわち、当業者にとってそのような組み合わせを実行する示唆や動機がありません。
三、結論
以上のとおり、審査官が適切な引例を見つけずに、「公知常識/慣用技術的手段」を使用して進歩性を評価している場合、本発明の発明点、これらの技術的特徴が当分野の公知常識/慣用技術的手段に属しているかどうか、および従来技術との組み合わせやすさなどの面から慎重に分析し、十分に論じる必要があります。
著者:品源特許弁理士 Yunxiao Yang、Zhijun Yang