中国商標法では先願主義の原則を堅持していますが、知的財産権法保護体系においては、馳名または一定の影響力を持つ未登録商標に対してもある程度の保護力を与えています。ただし馳名でない未登録商標、非悪意的登録行為、または一定の影響力を持たない非登録商標については、まだ法律保護を得ることができません。
商標登録件数の増加に伴い、登録可能な商標リソースも少なくなり、多くの企業は未登録商標の使用を検討しなければならない状況に至っています。中国の知的財産権法体系には、「商標法」と「不正競争防止法」のいずれにも未登録商標の保護問題に対する規定が含まれています。
「商標法」第十三条第二項には次のように規定されています。
同一又は類似の商品について登録出願した商標が、中国で登録されていない他人の馳名商標を複製、模倣又は翻訳したものであって、容易に混同を生じさせるときは、その登録をせず、かつその使用を禁止する。
馳名な未登録商標を構成している場合、「商標法」第十三条第二項の規定を適用して、他人が同じまたは類似の商品に登録して使用することを禁止することができます。また、商標法では、馳名商標を認定する上で考慮すべき要素を以下の通り規定しています。
・関連する一般公衆の当該商標に対する認識度
・当該商標の継続使用期間
・当該商標のあらゆる宣伝活動の期間、程度、地理的範囲
・当該商標が馳名商標として保護されている記録
・当該商標が馳名であるその他の要素
「商標法」第三十二条には次のように規定されています。
商標登録出願は先に存在する他人の権利を侵害してはならない。他人が先に使用している一定の影響力のある商標を不正な手段で冒認登録してはならない。
馳名状態に達しておらず、一定の影響力がある未登録商標については、「商標法」第三十二条の規定を適用して、他人の不正な手段による冒認登録を禁止することができます。
ここで注意しなければならないのは、「一定の影響力がある」という点と、「不正な手段」という2つの点です。
まず、未登録商標には「一定の影響力がある」ことが必要です。これについて、「北京市高級人民法院による商標の権利付与・権利確定に係る行政案件の審理指南」において次のように規定されています。
当事者が先の未登録商標の継続使用時間、区域、販売量または広告宣伝などの証拠を提出し、当該商標が一定範囲の関係公衆に知られていることを証明できた場合「一定の影響力がある」と認定できる。
次に、「他人が不正な手段で」冒認登録することが禁止されています。
最高人民法院は「鴨王」に係わる商標行政訴訟再審事件において、北京鴨王が北京地域の範囲内で先使用商標として一定の知名度を形成していたにも関わらず、上海鴨王には冒認登録の悪意がないため、上海鴨王の後の出願商標は2001年「商標法」第三十一条の後半の段落の規定に違反していないと認定しました。
しかし、最高人民法院は同時に、「北京鴨王が先に使用して形成した先の権益は保護されるべきで、北京鴨王には北京地域の範囲内で先に使用していた鴨王標識を引き続き使用する権利がある」と認定しました(『商標法』第五十九条第三項の規定)。すなわち、北京鴨王は先に使用している一定の影響力のある未登録商標として、「商標法」第三十二条に基づき、悪意のない商標登録行為を阻止することはできなかったということになります。
「不正競争防止法」第六条には以下のように規定されています。
事業者は、次に掲げる混同行為を実施し、他人の商品である又は他人と特定の関連性があるとの誤認を関連公衆に生じさせてはならない。
(一)他人の一定の影響力のある商品の名称、包装、装飾等と同一又は類似した標識を無断で使用する。
また、馳名な状態に達しておらず、一定の影響力がある未登録商標について、他人が冒認登録せずにそのまま使用している場合は、不正競争防止法第六条の規定を使用して、未登録商標の権益を保護することができます。「不正競争防止法」第六条では、他人に一定の影響力を与えている商業標識について、他人の商品である、又は他人と特定の関連性があるとの誤認を生じさせる行為を実施することを禁止しています。
「不正競争防止法」第六条でも同様に「一定の影響力がある」という表現が用いられていますが、「不正競争防止法」およびその司法解釈では、「一定の影響力がある」という認定について明確に規定されていません。「不正競争防止法」は知的財産権法体系の中で、補充と雑則の役割を果たし、この第六条の商業標識に対する保護範囲は更に広いので、筆者は、「不正競争防止法」第六条における「一定の影響力がある」という認定は、少なくとも「商標法」第三十二条における「一定の影響力がある」という認定基準と一致すると考えています。
同様に、「不正競争防止法」第六条を適用する場合、「一定の影響力がある」という認定のほか、他人に混同を生じさせる主観的故意の程度も考慮しなければならず、不正競争行為の成立は行為者の主観に故意があることを前提としなければなりません。
筆者 北京品源 劉福順
出所:https://mp.weixin.qq.com/s/1fDAq0KQzGw6DA7Q1VejeQ